劇団新企画「シリーズつなぐ〈艀〉」10月6日開催!

第1回 キューバの儀式「サンテリーア」との衝撃的な出会い/Live at YBT vol.1 開催記念 遠藤律子ロング・インタビュー

はじめに

アジアの民族楽器・創作楽器の印象が強い横浜ボートシアターには、あまりジャズのイメージがないと思われる方が大半でしょう。

しかし、ジャズピアニストの遠藤律子さんと横浜ボートシアターには浅からぬ縁があります。

この縁を結んでくださったのは遠藤律子さんの妹、新井敦子さんです。

敦子さんはかつて遠藤啄郎の演出による『OGURIとTERUTE』をはじめ、横浜ボートシアターの舞台に出演されておりました。その舞台を律子さんが観劇して以来、劇団員と律子さんの交流が始まったのです。

遠藤啄郎は生前、何度も律子さんのライブに足を運んでおり、律子さんのパワフルさや音楽性をとても気に入っておりました。

私、松本利洋も遠藤啄郎のご相伴にあずかり、圧倒的なライブを目の当たりにして、ちょっと泣きそうになるくらい感動したこともあります。

律子さんご自身の演奏はもちろん、律子さんがまとめるバンドメンバーの方々も本当に素晴らしいものです。彼らが一瞬のうちに生み出す音のエネルギーには、「生きるっていうのはこういうことなんだ!」という非常に尊いメッセージが詰まっています。

そのような音をプロデュースしている律子さんの手腕、能力を、私は密かに私淑しておりました。

今思えば、これまで私は律子さんとじっくり話す機会がありませんでした。畏れ多いという気持ちもあったし、そもそもライブ会場で長いこと話すわけにもいきません。今回、さまざまな偶然が重なって横浜ボートシアターでのライブの話が決まり、この機会に乗じて厚かましくもインタビューをさせていただくことができました。

律子さんのライブを観たことがある方はぜひ、あの独特な口調を思い浮かべながらこのインタビューをお読みください。


律子:ツアー(※)の1年くらい前にキューバに音楽を聴きに行ったんです。そしたらサンテリーアっていう宗教儀式があって。私が皆さんのお芝居が好きなのはそれをなんか思い出しちゃうんだけど。踊りと音楽の宗教で……似てる訳。劇団がやってることと。魂がこうやって吹き上がるみたいな。

(※)律子さん主宰の大所帯バンド「ファンキー・リツコ・バージョン」の中南米ツアー。

サンテリーアっていう言葉は、「テリーア」っていうのが、カフェテリアみたいな感じで、「場所」っていう意味なの。それで「サン=セイント」っていうのは「聖なる」という意味。合わせて聖なる場所。カフェテリアはカフェの場所。ロッテリアってのはロッテの店(場所)だから、ロッテリア。

松本:なるほど。

律子:で、サンテリーアっていう儀式がキューバにあって。西アフリカからアメリカ大陸まで、近いでしょ。西アフリカのここら辺の黒人たちをたくさん奴隷で連れてかれちゃったわけ。ブラジルとかアメリカとか、キューバとか。それで、ヨルバ族って言うんだけど、この一族がつれてかれて。 ヨルバ族がキューバで自分たちの土俗の宗教を持ってたわけ。だけどそれやると弾圧されちゃうかもしれないから、表向きキリスト教になったんですよ、みたいな感じで、黒い肌のマリア様みたいなの作っちゃって、表向きキリスト教だからっていうふうにしてやってたから(サンテリーアとしては)教会を持ってないの。教会建てちゃうと弾圧されちゃうから、キリスト教になれって。

だから、監視の目をかいくぐって、いろんなお家で、「今週の土曜日はこのおばさんの家、次はここの家」って感じで家でやってるわけ、儀式を。毎週土曜日に。キューバに行ってたお友達がいたから、その人に紹介してもらって、見に行ったんですよ。余談だけど、その前にたまたまハイチのブードゥー教のCDを買ったの。

すっごい良いと思って。後で知ったんだけどブードゥーとサンテリーアはルーツが同じなんです。ハイチに行ったからブードゥーになったんだけど。キューバに行ったからサンテリーアになったと。

で、見に行ったら私は見学だからお金払って見せてもらおうとしたら、これは見せ物じゃないから、見学しないで参加しろって言われたわけ。で「えーっ!」てなって、そうなんですかっつったら、なんかこんなタライがあってそこにお花か何かが浸してあるの。そこで手を洗えって。神社みたいに。で、手を洗ったら次は別の場所でね、マラカスが置いてあるの。日本だとさ、(お鈴を)チーンとかやるじゃない。向こうではシャカシャカとか鳴らして。で、さすがだなと思って。

家の中に入ったらもう10時間ぐらいやってる儀式なんです、1日で。私は4時間くらい見てたんだけど、近所の兄ちゃんたちが、ミュージシャンじゃないんだよ、近所の兄ちゃんたちが来て、4、5人でコンガ叩いててすごいわけ。もうすごいビートで、これ日本に来たらもう超一流、みたいな。そこのおばさんがマラカス振ってるわけ。で、みんなが踊ってるわけ。 暖房冷房なんかないんですよ、キューバには。

汗水垂らして、私もしょうがないからこうやって参加してたわけ、で、踊ってたら、だんだんガーって盛り上がってきたら、バタッて倒れる人がいたの。その人が起き上がったら、ちょっと目が血走って違う人間みたいになってんの。それでイタコみたいになって、その人に先祖が降りてきたってことになってるわけ。で、その人のところにみんなが順番に並んで、「おじいちゃ〜ん」とかいう訳。お盆みたいなもんなの。みんな、おじいちゃん、おばあちゃんと話してんの。私も並んで話せって言われたけど、「先祖が違う」と思いながら並んだけど、その目が血走ったおばあさん、怖いんだけど、なんだろう、私のことを見てるわけ。しょうがないから「お会いできて嬉しい」ってスペイン語で言ったら、グタってなっちゃったんだけど、そのおばあちゃんが正気に戻ったら、また踊ってるわけ。

で、今度はこんなナタが出てきたわけ。サトウキビを切るナタ。それで私の膝なんかを触るわけです。これやばいと思って、今度はトイレに隠れたの。

そしたら呼びに来られて引きずり出された。しょうがないからもう死んでもいいと思って踊ってたら、さすがにそれでは死ななかった。ただ踊ってるだけ。そしたら今度は、キューバって、飲み物とかも当たったりするところだから、お腹気をつけなきゃ、みたいなとこなのに、なんかヤシの実の半分に切ったやつに、お酒が入って回ってくんの。飲めって言ってきたから、しょうがないから30人ぐらい飲んだ後の酒を口移しで飲んじゃったから、「飲んじまった……もういいや〜」と思ってたら、今度はおっさんがプラスチックの洗剤の容器に入ったお酒を口に入れてプワーっと吹くわけ。それを浴びちゃって「もういいです、どうにでもなります」とか思いながら踊ってたわけ。

そしたらリズムがね、 どんどんどんどん、これアフロってリズムなんですよ(口三味線)。どんどんとこそれが、2時間ぐらいやってると、どんどん、どんどん、こういうふうになってくるわけ(口三味線)。

何時間もかけて、だから結局、キューバでラテンが生まれたのがね、こういう感じで生まれたんだっていうのが、聴けたの。そこで、ずっと聴いてたから。これを目の当たりで聴いちゃって、これいい勉強だと思って。でもさすがにくたびれちゃって、お布施じゃないけど、お金をちょっと2ドルぐらい置いて「ありがとうございました」ってみんなに挨拶してミュージシャンに挨拶して帰ってきたんだけど、あの人たちは10時間ぐらいやってるんだって。毎週土曜日。だからみんな踊りも上手。毎週やってんだから。あのゴスペルの教会と同じで、ワーッて歌って、子供だって音楽の勉強をみんなやってるんだから、大人になったら立派なサルサダンサーとかになっちゃうわけ。

参考:サンテリーアの風景
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