劇団新企画「シリーズつなぐ〈艀〉」10月6日開催!

仮面

古来より演劇や祭祀に広く用いられてきた仮面。横浜ボートシアターもまた、演劇の可能性を追求するために仮面を用いています。

劇団所蔵の仮面(一部)

現代における仮面劇

皆さんは古典ではない、いわゆる創作仮面劇をご覧になったことはあるでしょうか? 能、神楽、トペン舞踊、コメディアデラルテなどの伝統芸能であれば、仮面が用いられることは稀ではありませんから、そういった類いの古典的な仮面劇であれば観劇された方もいらっしゃると思います。

しかし、どういうわけか、21世紀の現在、世界中を見渡しても本格的な創作仮面劇を行っている劇団はお世辞にも多いとはいえない状況です。なぜ、仮面劇は新しく演じられなくなってしまったのでしょうか?このこと自体も非常に大きな問題ですが、相当にこみいったテーマなので他稿にゆずることとします。このページでは横浜ボートシアターが仮面を使って演劇を行う理由、そして当劇団の仮面ついて、ごく簡単にご説明しましょう。

仮面劇を行う理由

当劇団が仮面にこだわるのは、生身の身体では表現の成立が困難なスケールで演劇を行うためです。「スケール」というのは、役者の芝居の次元においても、演劇作品の世界観という次元においても言うことができます。

例えば、神や仏、神話的人物といった超常的なキャラクターを演じる際にはそれ相応の大きな芝居をしなければいけません。これは生身の身体のままでは難しいことです。しかし仮面をつけると、主観的にも客観的にも、仮面を媒介としたキャラクターそのものへ、より効果的に近づくことができます。演じる方も見る方も、仮面という象徴を手がかりとしながら世界を作り上げて行くことができるのです。

では、仮面劇というものは、仮面をつけない演劇よりも簡単なものなのでしょうか? いいえ、決してそんなことはありません。仮面をつけない心理主義の芝居にありがちな「やったつもり」の小さい演技は、仮面劇においてはいっさい通用しないからです。また、例え生身の体では良くできた演技であっても、それをそのまま仮面に持ち込むことは難しいのです。よくボートシアターでは「仮面の次元」と称しますが、パワーと技術に支えられて初めて仮面を用いた表現が成立するといえるでしょう。

仮面の種類

形式という観点からみると、仮面には大きく分けて全面半面の2種類があります。全面は顔全体を隠す一方、半面は口から下を覆いません。

全面は伝統的な芸能の中で発達してきましたが、当劇団では台詞の少ないキャラクターにおいてよく使用されます。

半面は全面よりも台詞を伝えやすいため、台詞のある演劇ではよく使用されます。当劇団でも多くのキャラクターが半面によって演じられてきました。

なお、全面の変形として頭面(とうめん)というものも存在します。文字通り顔だけでなく頭全体を覆う構造です。

仮面の材質

皆さんにとってなじみ深い縁日で売られている仮面の多くはプラスチックやゴム製です。しかし、伝統的な仮面の多くは木彫りか皮によって作られています。インドネシアでは木彫りの仮面による芸能が盛んですし、イタリアのコメディアデラルテでは皮製の仮面が使われています。

横浜ボートシアターで使われている仮面の大部分は、劇団代表の遠藤啄郎により、皮と和紙で製作されたものです。仮面作家としても数多くの作品を手がけている遠藤は、幾重にも貼られた和紙の上に皮を貼ることで、しなやかさと耐久性を併せ持った表現力豊かな仮面を作り上げてきました。

当劇団の代表作「小栗判官・照手姫」を始めとして、インド神話「マハーバーラタ」の壮大な悲劇、自然との共生を鮮やかに描いた宮澤賢治作品、バリ風に大胆に演出された「夏の夜の夢」などで使用された数々の仮面は、今も船劇場に保管されています。