あらすじ

京都鞍馬山の毘沙門天に祈願し授かった、二条大納言、兼家の一人息子「小栗」は文武両道にすぐれた美しい若者であった。小栗十八才の折、みぞろヶ池の守護神の大蛇が化身した姫と契り、都をさわがせた罪により、父兼家の命により常陸国に追放されるが、東国の武将らは小栗を貴人とかしづき仕えた。

ある時、旅の商人後藤の手引きで小栗は相模国の守護大名、横山が日光大明神に祈願し授かった一人娘照手姫と恋に落ち、横山一族の許しも待たずに結婚してしまう。小栗の傍若無人の振る舞いに腹を立てた横山一族は、人食い馬の「鬼鹿毛」に小栗を乗せ、喰い殺させようとするが、小栗は見事に「鬼鹿毛」を乗りこなしてしまった。

怒り恐れた横山一族は、照手の兄三郎の策略で小栗を酒宴に誘い出し、十人の家来ともども毒殺してしまう。だが、都の威光を恐れる横山は、照手も同罪と相模川に石をつけ沈めようとするが、なさけある家臣の計らいで照手は一命はとりとめたものの、人買いの手に渡り各地を点々とし、美濃国青墓の宿の遊女屋に買い取られる。しかし、照手は亡き夫への操を守り、客をとることを拒み続け、名前も小萩と呼ばれ、十六人分の下女の仕事をまかされ苦難に耐えていた。

一方、家臣とともに地獄に落ちた小栗は、忠節な家臣のたっての願いを聞きとどけた閻魔の「この者を藤沢のお上人に渡し申す。熊野本宮湯の峰に送り届ければ、薬の湯を送るべし」と書かれた手紙を胸に、見るもおぞましい餓鬼の姿となり墓を割って、この世にもどされる。 耳も聞こえず、目も見えず、動く事さえできなくなった生者とも死者とも定かでない小栗を、藤沢のお上人はいざり車に乗せ「一引き引いたは千僧供養、二引き引いたは万僧供養。」そう唱えながら、上野が原から聖地熊野に向けて引いてゆく。藤沢のお上人の引くいざり車は、美濃国青墓の照手が働く遊女屋の前にさしかかるとぴたりと動かなくなってしまい、お上人は帰路につく。

餓鬼を見つけた照手は「夫の小栗がこのような姿になっていても、もしこの世に生きておいでなら自分の今の苦労も耐えられるであろうに」と、なげき哀しみ、亡き夫や家臣の供養のためにいざり車を引く決心をし、主人から五日間の暇をゆるされ、狂女に身をやつし、滋賀県近江の関寺まで辿り着き、主人との約束を守り涙ながらに青墓に戻ってゆく。

照手と別れたいざり車は、道行く善男善女等の報謝で手から手へと引かれ、京、大阪を越え、熊野詣の人々の手で険しい山や谷を越え、湯の峰に運ばれ閻魔の送る湯につかり、上野が原を出てから四百四十四日。小栗は生前にまさる美丈夫となり蘇生する。

生きかえった小栗は京都で両親とも対面。常陸に戻る途中照手とも再開し、小栗を毒殺した兄三郎、照手を人買いに売ったむら君の太夫の妻、両名を処刑。常陸にもどった照手と小栗は末永く夫婦として天寿をまっとうした。