どんぐりと山猫

遠藤流<語りの復権>で、賢治世界がいきいきと躍動する!「誰が一番えらいか!?」

山猫の誘いで奇妙な世界へ踏み込んだ少年が、競争するどんぐり達の裁判で賢い判決を下す。

それは賢治の法華経に根ざした理想の生き方の表れにほかならない—-。

宮澤賢治が生前に出版した唯一の作品集『注文の多い料理店』に収録されている名作の一つ『どんぐりと山猫』を、これまで長年にわたり賢治の世界を演劇化してきた遠藤啄郎が、語りと演奏だけでその世界の本質をダイナミックにえがく。

一郎、山猫裁判長、馬車別当のほかに、栗の木、笛吹き滝、きのこ、リス、そしてどんぐりたちが登場する不思議な世界を、『恋に狂ひて』で愛護役を演じた女優・柿澤あゆみが童話から 飛び出した者のように魅力的に一人語り。山間の少年と山の動物たち、自然との交流を、明晰な言葉遣いと、生き物達の多彩な<声>や<気配>の色合いをときに身振り手振りまじえながら演じ分け、松本利洋がエレキギターで軽快かつ躍動的な音、演奏で賢治世界をふくらませる。 「誰が一番えらいか!?」という風刺は、一郎少年の成長を描く物語としてではなく、人間存在の本質そのものに問いかけをもたらします。

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【あらすじ】

ある秋の土曜日、一郎少年のもとに、下手くそで間違いだらけの文で書かれた怪しいはがきが届くところから物語がはじまる。翌日面倒な裁判があり、ぜひ出席してほしいという内容で、差出人は、山猫となっている。一郎少年は、はがきを秘密にして、一人で大喜びする。翌日、一郎は山猫を探しに山へ入る。

深い榧(かや)の森の奥に広がる草地で、異様な風体の馬車別当と会い、はがきを書いたのは彼であることなど話すうちに山猫が登場し、どんぐりが集まってきて裁判が始まる。どんぐりたちは誰が一番偉いかという話題で争っており、めいめいが自分勝手な理由をつけて自分が偉いと主張するので、三日たっても決着がつかないという。

馬車別当は山猫に媚びるばかりで役に立たず、裁判長である山猫は「いいかげん仲直りしたらどうだ」と体面を保つばかりで、判決を下せないで困っている。一郎は山猫に、一番ばかでめちゃめちゃで、頭のつぶれたようなのが一番偉い、という法話を耳打ちし、知恵をつけて助けてやる。山猫が判決を下すと、一瞬にしてどんぐりたちの争いが解決し、判決の鮮やかさにどんぐりたちは固まってしまう

山猫は一郎の知恵に感心し「名誉判事」という肩書きを与え、はがきの文面を「出頭すべし」 と命令調に書き換える提案をして否定されてしまった。山猫はよそよそしくなり、謝礼として、 塩鮭の頭と黄金(きん)のどんぐりのどちらかを選ばせ、一郎が黄金のどんぐりを選ぶと白いきのこの馬車で家まで送ってくれる。黄金のどんぐりは色あせて茶色の普通のどんぐりとなり、 そして二度と山猫からの手紙はこなくなってしまう。一郎は、「出頭すべし」と書いてもいいと言えばよかったとちょっと残念に思うのである。

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【公演の感想】

登場人物など語りわけ生き生きとしていてとてもよかった。(女性)

情景が見え、すっかり引き込まれました。子供にあんな読み方をしてやれば良かったと思いつつ伺いました。(女性 80代)

事前情報が何も無い状態で参加しました。とても楽しかったです。柿澤さんの声色が多彩で各キャラクターに個性があり楽しく拝聴しました。(女性 30代)

語りという表現手法に対するイメージが変わった。(女性)