『小栗判官・照手姫』復活上演計画について(4)三人の『小栗判官・照手姫』から始める

『小栗判官・照手姫』復活上演をめぐる連載、本日で最終回です。前回は突然の修理勧告に突き動かされ、船劇場の今後をどうするか様々な方と相談していく中で、『小栗』上演の話があれよあれよという間に浮上したことをお伝えしました。しかし、役者の人数が全く足りず、その上今までの演出や衣裳にも頼ることはできない……演出を担当することになった吉岡は悶々と眠れぬ日々を過ごすしますが、『小栗』参加者の初顔合わせ前日、あることを思い出します。

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三人の『小栗判官・照手姫』から始める

2023年秋に、自分達で新たな『小栗判官・照手姫』を上演することとなり、役者集めとチームづくりに頭を悩ませ、「もうこれは無理なのでは…」とまで追い詰められた昨年12月中旬、ともあれ声掛けに応じてくれた役者さんたちと顔合わせの日を設けました。

まさにその日の前日に、ふと、遠藤が以前話していた「三人の小栗」について思い出しました。それは三人の役者で上演する『小栗判官・照手姫』のことで、ボートシアターが1982年に初演をする以前、1979年に黒テント主催で行った上演でした。

その台本を以前遠藤から受け取っており、上演したいと思い活字に打ち直してあったのです。

取り出して読み直してみると、ボートシアターで上演された台本の原型が既にほぼ全て出来上がっており、説経を劇化した最初の衝動が、後の台本より色濃く表れています。

「これだ! 小栗は三人でもできるんだ!」

そう思ったら、やっと待ち受ける創作が楽しみでわくわくし始めました。

「三人でもできる」とは言うものの、遠藤の話では、当時三人のうち唯一の女優さんは、他の二人の男優さんに厳しく絞られて、稽古中に吐いていたとか… なにせ二時間以上の一大叙事詩を三人で演じ切るのですから、その大変さは察して余りあります。

しかし今回は三人ではなく、七人くらいではできそうなので、そこまでのキツさではないと考えています。

劇団創立メンバーの野口英さんにお聞きしたところ、黒テントの三人の小栗を当時観ていらして「面白かったよ〜」とのこと。

黒テント出身のこちらも劇団創立メンバーの玉寄長政さんはご覧になっていないとのこと、そして三人の先輩をご存じでしたが「三人とも亡くなったよ」とのこと。

脚本・演出は遠藤啄郎、舞台美術は堀尾幸男氏、音楽は矢吹誠氏と、まさにボートシアター版の原型であり、堀尾さんのお宅に伺った際、舞台写真を数枚拝見しました。

現在、この台本を参考に、七人の『小栗判官・照手姫』を目指している次第です。

幸い役者さんは皆乗り気で、それもそのはず、この『小栗判官・照手姫』という作品は声に出して読むだけでも楽しい独特の古語のリズムと、簡潔で奇想天外なドラマの展開、腹の底からのダイナミックな声と身体表現を受け止めてくれる壮大な世界観を持った作品なのです。

1月の下旬から新型コロナ感染症の蔓延で、状況が落ち着くまで稽古は中止となりました。せっかく面白くなっていたのに拍子抜けですが、今の間にできることもたくさんあるので、時間を大切に過ごす日々です。

『小栗判官・照手姫』復活上演計画についての連載は本日でひとまず終わります。今後も作品について報告を行ってまいります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

吉岡紗矢

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