劇団新企画「シリーズつなぐ〈艀〉」10月6日開催!

89歳遠藤の新境地、ラクダの仮面を徹底解剖!そして、その仮面をつけるのは……?

アメリカ国旗を持つラクダ

アメリカ国旗を持つラクダ(撮影:古屋均)

 

「さらばアメリカ!」のチラシの写真でアメリカ国旗を持ち横を向いているのはラクダです。
死んで亡霊となったラクダ。
当初主人公以外の登場人物はほとんど仮面にしようという案もあったが、最終的に死んだラクダと銅像の馬だけが仮面になった。
銅像の馬は以前作った物を使い回し、色を塗り替え使うことに。
今回新作の仮面は死んだラクダのみとなった。
新作な上にボートシアターにとって、遠藤にとって、このラクダの仮面は新スタイルだ。
能など独特の発声技術があるもの以外で、台詞があるものは声の通りを考慮した半面(顔の下半分が無いもの)がふさわしいと考えている。
しかしラクダは顔全体を造形しないと特徴が出せない。
細工はあとで工夫しようと言ってとにかく全面(フルマスク)のラクダの顔を遠藤が造形した。

制作途中のラクダの仮面(粘土の造形に和紙を貼った状態)

制作途中のラクダの仮面(粘土の造形に和紙を貼った状態)

粘土で造形した上に和紙を幾重にも貼り、更に革を貼って粘土から剥がす。

さて、それでどう細工するか。
中の役者が喋るのに合わせて仮面の顎が動くようにしたいと遠藤が言う。
そして声がこもらないように中は拡声器型にしたいと。
遠藤は構造を悩んで、しかし諦めて、顎を切り取って半面にしてしまおうと言った。
吉岡は遠藤の発想を捨てるに忍びなく、そして遠藤の投げかける無理難題を解決し具現化するのは影絵制作などで慣れていることでもあり、諦めず頭を絞った。
ボール紙で顎を動かす機構を試作している最中、遠藤は無理だからやらなくていいと何度も言っていたが、出来上がった試作を見ると「それで行こう」と言った。

ラクダの仮面の可動式顎部分の試作

ラクダの仮面の可動式顎部分の試作

試作通りの角度で仮面の顎を切り取り、可動範囲を決め、動くように再び取り付ける。

次は役者の口の動きに合わせて仮面の顎が動くように、中の当てをどう作るか。
遠藤が革で拡声器型を作ったらいいと言う。
インドネシア・バリの木彫りの仮面で顎が動くスタイルの物があり、それが顔のどこに当たって動くようになっているかをよく観察する。
そして仮面の内側に革の当てを作ってボンドで貼り込んでみた。すると…
できた〜‼︎
口の動きに合わせよく動き、しかも声がこもらない拡声器型の素晴らしい物が出来上がった!
バリの木彫りの仮面は付ける人の顔の形に合わないと顎が動かないのだが、このラクダの仮面は様々な顔の形に適応し、実によく動く。
いくつかの要望を満たしあまりにもよくできたので、遠藤も吉岡も驚いた。
そしてボートシアターの、遠藤の仮面の歴史が新たなページを開いた感慨にしみじみとした。

ラクダ

ラクダ(撮影:古屋均)

死んだラクダ、銅像の馬、この仮面の二役を担うのは一人の役者・村上洋司。
特に死んだラクダは仮面という日常より高い次元の表現をしながら、小道具である国旗を冷静に繊細に的確に扱わなければならない難しい役目で、おまけに歌も歌う。
人間の顔の3倍ほどある仮面の「銅像の馬」も、旗を振ったり台に乗ったり落ちたりいろいろ大変。
奮闘する村上は183センチの長身で、その大きな体が仮面を付けて出て来るだけで空気が変わる。
体型も手足の長いモデル体型で、ツギハギだらけのあり合わせの仮衣装をまとっても、カッコイイ衣装に見える。
モデル体型というのは服にダイナミックな動きをもたらし、服を引き立てる理にかなった体型なのだと、稽古を眺めつつやけに納得してしまった。

新式仮面と、そしてボートシアターの見所の一つである仮面を一手に引き受け孤軍奮闘する村上を観に、是非劇場までお越し下さいませ。
皆さまのご来場を心よりお待ち申し上げております。

本文:吉岡紗矢

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