劇団新企画「シリーズつなぐ〈艀〉」10月6日開催!

ツアー記録(5)  7月27日 秋田公演 秋田市文化創造館

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【吉岡紗矢の手記】

7月27日 秋田公演 秋田市文化創造館

昨夜は日付けが変わってから秋田に着き、就寝は2時。朝ご飯を食べるか迷ったが、午前中はフリーとのことで、まずは朝ご飯を食べてからゆっくりすることにした。朝食で会った朋さんが腰痛だと言う。昨夜まで24時間以上起きていたせいだと思う。プリンスも取り憑かれたように仕事をして寝ない人だったらしいが、腰痛を抱え、鎮痛剤の薬が原因で亡くなったはず。体は心とは別。心は歳を取らないと聞いたことがある。体が弱って死んでいくんだ。遠藤さんもそうだった。

朝食後コインランドリーで大きい物の洗濯(小さい物は部屋で手洗い)。このアルバートホテルは美術館のよう。廊下には絵画がびっしり飾られて、エレベーター前にはガラスの棚に陶器などの美術品。階段脇も二階くらいまでは絵画が並ぶ。部屋にも一枚。もし時間があるならぶらぶら絵画を見て歩くと楽しそうだ。午前中のフリータイムは貴重なので、ストレッチやマッサージ、声の響きの調整などを行う。声が疲れて来ていて、きちんと調整しないと響きのある声が出て来ない。

昼ご飯は各自ということで、松本くんと外へ出かける。狙いを付けたカフェがあったが思ったより遠そうなのでホテル近くのインドカレー屋に入る。道沿いの看板からかなり奥まった所に店があり、存在を主張するために大音量で音楽をかけている。松本くん曰く、インド料理好きにはピンと来る音楽らしい。カウンターだけの小さな店。一人で回しているらしい日本人の店主はかなりこだわりの人と見受けられる。メニューは2種類だけ。別料金のトッピングがいろいろ。皿に乗った2種類のカレーといくつかのおかずを混ぜて食べる方式。店主出演の食べ方の動画がカウンターの上で繰り返し流れている。味は辛かったがかなり美味しかった。店を出る時二人で「美味しかったです」と言うととても嬉しそうだった。

昼食後、今日の会場の「秋田市文化創造館」に向けて出発。すぐ近くだ。駐車場に車を止め、開場時間まで周囲を散策。変わった屋根のその建物の前には蓮池が広がる。今が見頃のよう。池の向かいに高校があり毎日この蓮池が見えるのだなぁと、窓の外ばかり見ていた自分の高校時代を思い出す。濁った水から出たとは思えない眩しいような蓮の花。茂る茎と大きな葉の、暗い影になった水中を大きな鯉が互いに縫うように泳ぎ回っている。鯉の見る薄暗い景色は地上と全く違うだろうと思ったりする。

14時から勇んで仕込みをするつもりでいたら、予約は15時からと言われ入れない。急遽追加料金を支払い14:30には仕込みに取り掛かる。真っ白な壁面。そしてとにかく広い、響く会場。これはなかなか難しそうだが、とにかく仕込みに専念。2時間超の仕込みの後、これまた広い控室で10分だけ声の最終調整。ぎりぎり響きのある声になった。

リハーサルを進めていると、かなり響きのある会場だから、もっとあっさりやった方がいいと奥本くんと朋さんに言われる。響きのある会場の場合、残響で言葉が混じらないようにゆっくり丁寧に行う。響きも聞きながらやっていたので、あっさりとはどうすればよいのかよくわからない。松本くんに、会場の響きが既に表現している部分があると言われ、声でスケールを出そうとしていた部分を抑え、歌うようにではなく、より喋るように語ってみる。奥本くんにも朋さんにも良くなったと言われたのだが。

本番、その路線でやっていたが気付くと会場の響きや広さを置いてけぼりにしながら語っておりテンポも上がってしまう。だが路線変更しなかった。案の定アンケートに「言葉がわからなかった」と書かれてしまう。「あっさり」の解釈を間違ったのか、対処出来なかった自分にがっかりである。

場としては武道場のような広さに90センチ×130センチのスクリーン、客席は50以上、かなり遠くまで設置していた。おまけに白い壁に光が反射し、響きといい光といい、拡散の方向へ向かう。本当は小さなスクリーンに吸い込まれるような求心力を作らなければならなかった、と今思う。もし演出の遠藤さんがいたなら、と考える。きっと、控室にした少し小さめの部屋を急遽会場にしたに違いない。どこの壁面をスクリーンの背景にするかも吟味する。そしてスクリーンの後ろに、光が拡散しないよう暗幕を要求したに違いない。今思えばの話。その時は皆それぞれの持ち場、準備に精一杯。演出家不在の辛さを思う。

とはいえ、会場の場所によって聞き取りづらさ、見えづらさがあったものの、喜んでくださった方々も多くいた。今回は子供さんが多く、終演後スクリーンの後ろに回りしげしげと眺め「(人形を固定するために)刺してると思った〜」など賑やかに、そして操作のために座る場所に代わる代わる入って人形を動かし、「鼻血を出しました〜」と白熊役を繰り返し楽しんだりしていた。アンケートを見ると音楽と、影絵については一人で語って動かす曲芸的なところを面白がっている方が多い。物語の深みへ引きずり込めなかったのは無念の極みだ。もしまた機会があるのなら、最高のものをお見せしたい。こんなにたくさんのお客さまを集めてくださったNPO法人土方巽記念秋田舞踏会の加賀谷満里子さんに心より感謝いたします。

閉館が21時なのでバラシは翌朝に持ち越される。加賀谷さん、秋田三味線の家系の御曹司という浅野さんと共に、秋田の郷土料理屋へ赴く。店では偶然浅野さんの参加されている邦楽が流れている。お祖父様の演奏も流れた。妹さんは民謡歌手とのこと。動画を少し見せていただいたが、パワーのある魅力的な声の方だった。

ハタハタの塩焼き。卵の食べ応えに驚く。ギバサという物凄く粘着力の強い海藻の食べ物をいただく。加賀谷さんより「土方巽にギバサを舞踏にした作品がある」とお聞きする。ギバサの舞踏と聞いて貧弱なイメージしか湧かず、どんな舞踏だったのか興味が湧く。帰ってから少し調べたがよくわからなかった。

給仕のお兄さんが突然「紙芝居をします」と現れ、何事かと思ったら、きりたんぽの由来話だった。連日自分が上演する立場なので、お客になれる嬉しさを感じ楽しかった。遠藤さんがいたら「お兄さん、そんな声じゃダメだよ。もう一回言ってごらん」とその場でレッスンが始まったことだろう。紙芝居では小さな声だったが、廊下で厨房とのやりとりだったか、すごくいい声を出しているのを聞いてしまった。あの声で紙芝居をすればいいのになと私も思った。

23時にはホテルの部屋へ。衣裳の洗濯をし、お湯に浸かり急いで寝る。明日は9時から今日置いてきた道具のバラシ。その後盛岡へ移動。仕込んで夜には上演だ。大変な一日になる。そう思っていたものの、そんなに大変なことになるとはこの時はまだ知る由もなかった。

【松本利洋の手記】

7月27日 秋田公演 秋田市文化創造館

今回のツアー中、朝は基本的にみんなで示し合わせて何時に食べようということはせず、チェックアウトや出発に向けた集合時間だけを決めて後は別行動だった。そうは言っても、同じスケジュールを共有しているので、意図せずタイミングが合ってしまうことが多い。

この日の朝は斎藤朋さんに遭遇した。ちょうどその時、朋さんはホテルのコインランドリーを使っており、洗剤の残りをいただくことになった。遅れて朝食にやってきた紗矢さんも溜まった洗濯物を洗いたいらしく、お金の節約ということで一緒に回すことになった。しかし、朋さんは一筋縄ではいかない人で、素直に洗剤を渡せばいいものを、「コインランドリーのどこかに隠しておくから!」という言葉を残してレストランを去っていく。

めんどくさいな〜と思いながら部屋に戻ると、Messengerに「〇〇に隠しておいたよ」というメッセージ。朋さんのただでは済まないエンターテイナーぶりはこんなところからもうかがえる。なお、洗濯は無事に済ませることができました。

余談だが、泊まっていたホテルは、基本的にはビジネスホテルだが、各階の廊下にこれでもかというほど絵画や焼き物などの調度品が飾ってあり、ちょっと不思議な雰囲気であった。「秋田 絵画が飾ってあるホテル」で検索するとすぐに出てくるから、ある程度そういう方向で話題になってるのかもしれない。

会場入り前に出演者組で昼食を食べに行く。最初はちょっと離れたところにある喫茶店(?)を狙っていたのだが、往復するだけで集合時刻になってしまいそうだった。手近な食事処はないかとホテル周辺を歩いていると、紗矢さんがカレー屋の看板を見つける。とともに、何やら耳覚えのある音楽が路地裏から聞こえてくる。「今日ヤバイ奴に会った」というインドの屋台飯を紹介しているYouTubeチャンネルのBGMだ。知っている人ならば、この音楽を聞いただけで一発で何屋さんかわかるだろう。店はかなり奥まったところにあり、近づくにつれBGMはどんどんデカくなる。中に入って扉を閉めてもそれなりの音量で結構うるさかったが、2種類のカレーを1皿に盛ったプレートはとても美味しかった。食べている途中でおもむろに出してくれた花椒のよく効いたスパイスもカレーによく合った。

昼食後、一同集合して車で移動。会場の秋田市文化創造館は秋田城のお堀の内側。お城周辺は一方通行ばかりで、辿り着くまでに苦戦してしまい、城の周りをぐるぐる回ってしまった。朋さん曰く、城の周辺は一方通行が多いことがよくあるとのこと。

しかし、それでも早く会場に着いたので、搬入が始まる前にお堀の蓮の群生を見たり、文化創造館の向かいにある新しくオープンしたばかりの大きな劇場(ミルハス)を足早に見学する。ミルハスの3階から下を見下ろすと直立している人型の銅像が見えた。普通、銅像は何かしら動きのあるポーズを取っているものなので、棒のように一直線に突っ立っている像は相当違和感がある。建物を出て銅像に近づくと、果たしてそれは東海林太郎の銅像であることがわかった。なるほど、それで直立しているわけですね。銅像のおかげで、東海林太郎が秋田市出身であることを初めて知った。

色々時間を潰して、ようやく会場入り時間に……と思ったら、こちらが想定していた入り時間と、ツアー前に申請していた時間が1時間違っていたらしく、後1時間待ってほしいと言われてしまう。ここまでの公演の経験から、1時間の違いがかなりの違いになることがわかっていたので、なんとかならないかとスタッフさんにお願いすると、申請書と追加料金で大丈夫ということに。朋さんが手続きしている間に、たまたま事務所を訪れていたジャグラーの方とお話をする。ジャグラー目線で見ても「秋田の竿燈まつりはクレイジーだ!」とおっしゃっていた。

申請が無事終わり、施設の台車を使わせていただき搬入開始。やたら天井が高く広大な会場は、かつて遠藤さんの「米寿を祝う会」を行なったBankARTを思わせる。演劇的な公演用ではなく、展示利用を想定したスペースということもあり、音の跳ね返りは相当すごい。これは語りが重要な作品にとってはかなりアウェイな環境である。さらには光を反射するであろう一面の白い壁も、スクリーンに対する集中を妨げる原因となりうるため、気になってしまう。以上のことは経験上分かっていたことなのだが、うまく伝えることができず、自分の力不足、言葉の拙さ、自分の経験や感覚を信じきれなかったことが悔やまれる。

公演に協力してくださった加賀谷満里子さんや文化創造館のスタッフの皆様のおかげで、本番には想像を超えて多くのお客様がいらしていただいた。前半の『月夜のけだもの』が終わった後、おもむろに椅子が並べられ、小学生と思われる子供たちが座った。前の方が観やすいからだろうが、果たして50分ほどの長さの『極楽金魚』を最後まで集中力が途切れず観てくれるだろうか。幸いにも、最後まで集中して観てくれた!

終演後、僕のスタイルにとても興味を持ってくださって話しかけてくださった方が、なんと秋田民謡(梅若流)の三味線の師範であった。歌と三味線のバランスにとても気を遣うらしく、舞台も同じですね〜と話が弾む。また、結構な音量と張り合う紗矢さんの声もすごいとおっしゃっていた。多くのミュージシャンと共演されているようで、そのこぼれ話なども聞かせていただく。話をしている最中、師範は常に謙虚な姿勢でとても感銘を受けた。

撤収後、いつものメンバーに加賀山さん、師範が加わり、師範おすすめのお店へ。そこは秋田の郷土料理が存分に味わえる料理屋で、昔の農具や漁具が壁にディスプレイされ、民謡の音源がかかっている(その民謡の多くで、師範が三味線を弾いていたとのこと)。きりたんぽ鍋を注文すると、若い店員さんが、秋田弁できりたんぽの由来を紙芝居で教えてくれた。

お店を出てホテル前で解散し、部屋に戻って就寝。次は三連続乗り打ちのラスト、盛岡公演。

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