
1日目
ワークショップは、クロードさんの自己紹介から始まりました。
クロードさんは、これまでに2つの異なる仮面の作り方を学んできたと語ります。
ひとつは、1ヵ月かけて丁寧に仕上げる、決められた様式や用途を持つ、完璧で美しい仮面の作り方。これはパリで学んだものでした。
もうひとつは、アメリカの「ブレッド&パペット・シアター」で学んだ、たった一日で作る仮面の作り方です。
この2つの手法を経験したクロードさんは、演劇において本当に必要なのは、美しさや様式性よりも、機能的な“道具としての仮面”であると考えるようになったそうです。
そして、「仮面をつけることで、自分自身の文化と向き合うことになる」という深い洞察に至ったと話してくれました。
続いて、粘土造形の基本に取りかかります。
まずは手で粘土をおおまかに整形し、その後、小さなナイフを使ってさらに細部を整え、平面や曲面を作っていきます。
ヘラではなくナイフを使うという点に、西洋的なスタイルを感じさせます。

基礎が終わると、今度は卵を縦半分に切ったような形に整形します。これが、今回制作する仮面のベースとなる“型”です。
粘土を大きく3つの部分に区切り、おでこ・目・口の位置をおおよそ定め、それに従って粘土を盛っていきます。
顔の造形がある程度できあがると、粘土型から仮面の本体を作っていく工程に入ります。

この工程のためにクロードさんは当初新聞紙とクラフト紙を指定し、劇団でクラフト紙を購入していたのですが、ワークショップ当日、ふと長らく使う予定のなかった紙を見せたところ、クロードさんは「今回買った新しいクラフト紙は何か別の用途に使うといい。むしろ前からあるものを使うべきだ」と即決。急遽、その古い紙を使うことになりました。
そして、糊として使うのは、なんと小麦粉と水。小鍋でじっくり煮て、糊を手作りします。

最初にこのような材料の指示を受けたとき、私たちは「とても倹約家な方なのかな」と思ったのですが、後になって、この選択にはクロードさん自身の深い問題意識があることが明らかになります。
練り上がった糊は、作業台に置いた紙に筆や手で丁寧に塗っていきます。
クロードさんの動きは手慣れていて、糊を塗った紙が次々と参加者に手渡されていきました。
しかし、粘土型に紙を貼るのはなかなか難しく、苦戦する人も多数。必要な紙の量も想像以上で、終盤には糊の残りが心配されました。
それでも、経験豊富なクロードさんは新たに糊を作り直すことなく、ギリギリ残った分量で全員が貼り終えることに成功。まさに絶妙な分量調整でした。
気づけば、すでに予定時間を過ぎていました。
最後に、参加者からの感想と、クロードさんからの簡単な応答の時間を設け、1日目は終了しました。
2日目
1日の乾燥期間を経て、2日目のワークショップがスタート。
この日は、乾燥させた仮面に色をつけていく工程がメインです。
まずは、粘土型から仮面を取り外す作業から。大胆かつ豪快に取り外すクロードさんの姿に、思わず笑いが起こる一幕もありました。

彩色作業は、まず全体を白く塗るところから始まります。その上に、赤・青・黄の三原色を使って色を重ねていきます。
絵皿に出した絵の具を、それぞれの参加者が思い思いに混ぜながら、クロードさんのアドバイスを受けて、少しずつ色を塗り重ねていきました。


1日目は工程が多く、皆様ほとんど休憩を取らずに5時間ぶっ通しで作業をしていましたが、2日目は乾かす時間も必要なため、比較的穏やかな空気が流れていました。
それでもクロードさんは常に目を配り、必要に応じて参加者にアドバイスを送り、時に実演を交えながら、それぞれの仮面がより生き生きとする方向に導いてくださいました。
全員の彩色が終わると、クロードさんの指示で片付けに入りました。
クロードさん自身も筆を洗ったり机を拭いたりと、率先して動いてくださったのが印象的でした。
その後は記念撮影タイム。机に仮面を並べての撮影や、集合写真を撮るなどして、和やかに締めくくられました。
最後に、参加者一人ひとりが感想を述べ、それに対してクロードさんも言葉を返してくださる時間がありました。
その中で、クロードさんは次のような考えを語ってくださいました。
「今の社会には、複製可能な“フェイク素材”があふれています。たとえば、木のように見えても、実際にはプリントされた素材が建材として使われていることがある。だからこそ、本物の素材や自然の素材に触れ、さまざまな素材の違いを実感することがとても大切だと考えています」と。
今回、身近にあった紙を使用したり、小麦粉で糊を手作りしたこと。また、仮面を作る上でまず粘土で形を作り、それに紙という違う素材を重ねること。
それらすべてが、身近なもの・自然なもの・本当のものを使い、素材そのものの違いを感じながらものを作る――そんなクロードさんの思想の表れであると、はっきりと理解できた瞬間でした。
仮面制作の技術そのものももちろん学びの多いものでしたが、それ以上に、現代社会の構造や素材文化への批評性を持ちつつ、人間にとって本質的に大切な感覚を伝えようとする姿勢に、深く感銘を受けました。
クロードさんのワークショップそのものが、ひとつのアートであったと、強く感じています。
クロードさんはもう間もなく帰国されるとのことですが、その前に一度、当劇団の稽古を見学に来てくださる予定です。お忙しい中、時間を割いていただけることを、大変ありがたく、うれしく思います。
いつか、クロードさんのいらっしゃるフランスに、私たちが伺えたら――。
そんな新たな願いも生まれた、大変貴重なワークショップとなりました。
(文責:松本利洋/写真撮影:奥本聡)
