
2025年2月7日に、衣裳デザイナーの緒方規矩子さんが、心不全のため96歳で亡くなられました。
緒方さんは劇団代表であった遠藤啄郎とご夫婦だった時期も長く、1980年代から2006年まで劇団に在籍され、劇団の創作に深く関わられました。
日本において衣裳デザイナーを職業として確立した草分け的存在であり、オペラ、演劇、舞踊など数々の舞台で大活躍される傍ら、劇団という創作の場をとても大切にされていました。
収集した古い帯を丁寧にほどいて接着芯で補強したものや、皆で海岸で集めた貝殻を衣裳に使用する、役者の顔型に合わせて仮面を作るなど、本物であることと手作りにこだわりました。(劇団のトレードマークとなっている仮面はそもそもは緒方さんが作り始めたもので、以降遠藤さんと共作した仮面は数知れず)
当初の中村川にあった木造船劇場が現在のものより小さく、観客と舞台が近かったことが、本物志向に繋がったと聞いています。大劇場ならいざ知らず、化繊など使って、至近距離で観る観客を興醒めさせる訳にはゆかないと考え、相当な手間暇をかけたようです。物語世界へ連れ去ろうという情熱と、求める完成度が半端ではなかったということが、当劇団が一時期一世を風靡した理由の一つです。

遠藤さん亡き後に『新版 小栗判官・照手姫』を手掛けることになった当初、緒方さんには「旧版の演出をそのまま復刻しようと思ってもできるものではないから、今のメンバーで新たに作りなさい」と厳しく背中を押してもらいました。創作とは何かを改めて教えてもらったと同時に、いつもそうであった緒方流の厳しい愛情を深く感じました。
遠藤さんと緒方さんは仕事上の同志であり、互いに敬意を抱いていましたが、夫婦でもあったことが複雑な愛憎を生んでいたと思われます。
しかし2月7日は遠藤さんの命日でもあり、お二人が同じ日に亡くなられたことに感慨深いものを感じております。
緒方さんのご冥福を心よりお祈りいたします。