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稽古場一番乗りは、音楽家の松本くんと、説経節政大夫さんでした。
僕が船劇場へ到着すると、説経節政大夫さんが演奏をしており、松本くんはその演奏を録音している様でした。
説経節政大夫さんと松本くんは、稽古場へ早く来て、音の打ち合わせや調整、セッティングなどを良くしています。
全員が揃ってからでは、出来ないことをしっかりとしているというイメージを勝手に持っています。
そして、徐々に稽古場に人が集まってきます。皆どこか少し緊張しているような雰囲気です。
そう、何と言っても、この日は、再演の見どころの一つである振付の稽古だからです。
今回、振付をしてくださるのは森田守恒さん。
ミュージカル「ラ・マンチャの男(2009年主催:毎日放送 製作:東宝)」や舞台「銀河英雄伝説(2011年 製作:(c)銀河英雄伝説実行委員会)」、「さらっていってよピーターパン(2010年 兵庫県立ピッコロ劇団)」といった舞台での振付を行ったり、代官山にあるご自身のスタジオでの活動や、大阪音楽大学で、演技演習の講師を務めるなど幅広く活躍されている方です。
そして、横浜ボートシアター作品の多くは森田さんの振付です。遠藤さんが演出したシアターコクーンでの「夏の夜の夢」や、青山劇場で行った「竜の子太郎」など、多くの遠藤啄郎作品に係ってこられた方です。また、ボートシアターの第一回作品「やし酒のみ」では出演もされています。
ちなみに遠藤さんは、「私は森田くんが子供の頃から知っているんですよ。森田くんのご両親と仕事をしていてね」と嬉しそうにお話されます。
この様に遠藤さんとも非常に係わりが深い森田さんですが、「恋に狂ひて」出演者の半数は今回初めて森田さんから振付をつけてもらいます。
ですので、どのような振付になるのか、どのような方なのか出演者に緊張があったのでしょう。
稽古は、龍のシーンから始まりました。
前回の稽古終わりに龍のシーンをどのように作っていくかという、テーマが浮かびあがり、出演者、楽師、演出それぞれが頭を抱えていたのでした。また、このシーンにも振りを付けてもらう予定でもあり、その前に舞台の形を決める必要があったのです。
遠藤さんは、まず台詞と歌について手を加えていきます。前回の公演では、龍が歌を歌う時にマイクを用いていたのですが、それをやめたのです。そして、春菜さんによる台詞と説経節政大夫さんの歌という構成へと変えました。
春菜さんと説経節政大夫さんの二人がそれぞれの視点で龍のセリフを語ることによって、龍の存在感が増したように感じられました。人と人形の関係にある二重性が、仮面で演じられる龍と語り手との間にも明確に生まれたように思えたのです。
そして、数回そのシーンを繰り返し、調整したのち振付稽古の開始となりました。
まずは龍の動きに振付が入ります。龍の視線が確実に愛護の若を捉えるようになどと指導が入ります。
そして、その後ろの波の動き、飛び込みのシーンと続きます。
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森田さんの振付が入ることで、シーンがより明確で具体的に変わっていきます。
それは見ている側だけでなく、演じている側にとってもはっきりとするのです。
きりふりの滝の高さ、長さ、奥行が今まで以上の具体性を持って舞台に現れているよう思いました。
振付の稽古はさらに進んでいきます。
基本的な方向性は踏襲しながら、それをブラッシュアップさせていくという感覚です。
一番変化があったのは、何と言っても愛護の道行の場面でしょう。
比叡山へ向かうところと滝へ行くシーン。その二か所が大幅に変更されました。
愛護がどのような道を進んでいったか、その様子が黒子となった出演者たちによって表現されるこの場面は、
一度見た方でも必見です。
前回は勢いで頑張っていたシーンが今回は自覚的に作られ、どんどん密度が濃くなっていきます。
特にコロスのシーンは、演じていても新鮮です。今回振りつけられたものを自分たちのものにしていくことで、
この作品は確実にもっと面白くなる。非常に手応えを感じる稽古となりました。
奥本聡(出演/制作)