『恋に狂ひて』2015年ツアー記録 6月28日(日)阿南市 夢ホール

6月28日(日)阿南市 夢ホール

執筆者の文字色:吉岡 奥本 松本


早めに起床、身支度を整える。簡単なストレッチと武術の練習を行う。体幹トレーニングはしない。今日は休養日だ。8:30に集合して、劇場へ出発。

ホテルの窓から散歩している遠藤さんが見えたので、春菜さんと手を振る。昨夜は夜中過ぎの到着、お疲れではと心配していたがお元気そうでなにより。

もう一つのホテルに泊まったグループは劇場のすぐそばだったようだ。僕たちは若干遅れて会場に到着する。風が強く、涼しい。梅雨とは思えない爽やかさだ。アスファルトが少ないせいだろうか? 荷物を楽屋へ置くとすぐに搬入作業が始まった。
前日の弁天座とは一転非常に洋風なホール。そして、広い。今までで一番広いホールに来た。

舞台裏もとにかく広いので、搬入も速やか。

楽屋も豪勢だ。阿南市で色々とコーディネートしてくださった林さんにご挨拶。彼は猿の役もやっているのですが、今日は裏山の猿も観に来るんじゃないかなんていっていますよ”と朋さんが紹介してくれる。

劇場スタッフさんは若い方ばかり。今時っぽく、揃ってスマホに熱中していらっしゃる姿を幾度も見かける。

設営作業……。金床は短い釘で止めることになっていたのだが、間違えて2寸の釘を打ってしまう。本日一度目の失敗だ。疲れているのだということがわかる。正直なところ、設営では集中できなかった。が、大過なく過ごす。無事に過ごす。お昼休憩に楽屋で上手く休めず、舞台の設営を手伝う。暗い中黙々とする作業は心が落ち着く。滝を釣り上げたところで僕は休憩に入る。湯浅さんは休憩にも入らず仕事をしていたが、休憩するのも僕の仕事なのだ。大体、休憩時間だったし。それにしても、暗闇での静かな作業は心が落ち着く。滝を固定するロープがじゃっかん長く余っていたので、ボーイスカウト時代に培った技を使いロープを綺麗にまとめる。

遠藤さんはお弁当が好きではなく、いつも町に出て食べて来る。今日も町に出たが行けどもお店がなく、やっと見つけたのがお弁当屋さんで、仕方がないから店先の椅子を借りてそこで結局お弁当を食べた。おまけにお店探しでくたびれてしまい、帰りはタクシーを呼んでもらって劇場に帰ってきたとか。お弁当屋さんは奇妙な人だと思ったに違いない。

改めて休憩に入って、僕はとんでもないことに気付く。衣装の黒靴下を劇場に忘れてしまった!
玉寄さんが、「予備を持ってきているからあげるよ」とおっしゃったが、調べてみると予備をホテルに置いてきたことが判明。そうなってしまっては、仕方がない。時間も多少あるので、散策がてら近所のコンビニに黒い靴下を買いに行った。

本日二度目の失敗である。ちらりと歩いただけだが、阿南はとてものどかな町で気に入ってしまう。飛び交うトンボ、用水路で泳ぐ魚、日差しもどことなくおだやかだ。この町でもう少しのんびりしたいと思いながら、コンビニまで出かける。そこで、気づいたのは阿南夢ホール付近には斎場と、結婚式場と、ホテルと文化施設まで揃っているということ。わかり易く言えば、お葬式や結婚式に来る人が泊れるようにホテルが近所にあるのだろうということ。なんだか、凄くストレートな街づくりだ。

広い楽屋で女子はストレッチ。ちょっとの間を見つけてはばたっと倒れて眠る柿澤さんを春菜さんが羨ましがっていた。

休憩があけると、見切れをなくす作業をする。綾香さんが非常に熱心にその作業をやっていた。綾香さんは見切れに非常にこだわる人だと言うことを僕はこのツアーで初めて知った。もう、何年も一緒の舞台に立っていたのだけれど、今更そんなことに気付いた。

とにかく広い舞台なので装置の両脇の余白を黒布で覆う作業を、湯浅さんがせっせと行ってくれる。

場当たり、前日に花道を使ったシーンを整理する。坊主のシーン、滝へ飛び込み流れていくシーンからラストまでの動線が変更、整理される。この会場は声が響く。響きばかりになって何を言っているかわかりにくくなると遠藤さんから注意を受ける。比較的低めの声で、響かないように台詞を作ることにする。そこまで決めて、あとは楽屋でのんびりしていた。

本番前の歌稽古。声がよく響くので気持ちいい。ギターの音もきれいに聴こえる。音楽向きのホールのよう。パーカッションもずいぶん気持ちよさそうに叩きまくっている。

しかし実際のところは、ちょっとした音でも響きがあることで強力な説得力が出てしまうので、どうやったら芝居にうまく馴染むだろうか、ということばかり考えていたので、楽しむほどの余裕はなかった。音楽でやるのであればとても演奏のしがいがあるホールだな、と思いました(ちなみに後で録音を聴いたら残響が生で聴くのと全然違い、かなりすっきりした音になっていて驚き)。

が、受付周りに顔を出していないことに気付き受付へ急いで顔を出す。やはり、こういうことはきちんとしなくてはいけない。受付周りのことが終わり、楽屋へ戻ると間もなく開演時刻。小道具のミスは無い。体は若干重かったが、それでも舞台に立てないほどではない。体を温めて舞台へ臨んだ。

今日も心配しつつ開けてみたら、たくさんのご来場をいただきました。また朋さん曰く「108人」(このツアーでは多い数を108と言う)

舞台からは相変わらず、客席が良く見える。コンタクトレンズをしていないので、お客さんの反応は良く見えないけれど、舞台が不思議にはっきりと見える。芝居も無駄な力が入らず、切れている気がする。一つ気になっているのは、第二幕の猿がいなくなるところだ。もう少しお客さんの反応を引き出したいのだけれど……。

舞台上だけでなく、広々した舞台袖でもかなりのびのびした感覚を味わう。柿澤さんはリサイタルのように気持ちよさそうに、ソロの歌を歌っていた。

幕が閉じてカーテンコール。拍手が鳴り止まない。一度、楽屋へ戻り衣装を脱いだところにカーテンコールがまだあるよと知らせを受ける。行かなきゃと焦って、衣装を着ずに出ると誰もいない。思わず、“あれっ?”とつぶやいてしまう。
皆、それを聞いていた。楽屋で、綾香さんからなじられ、ばらしている最中に竹内さんから“こんやは美味い酒が飲めそうだ”と冗談を言われた。今日、三回目の失敗。本当に疲れていたのだと思う。そう、思いたい。

役者陣がロビーに出て行くが、他の劇場の時のようにお客さんが気安く話しかけて来ない。大きな劇場ではお客さんと出演者の距離が遠くなるのだと実感。

バラシている途中、効率的な釘の抜き方を湯浅さんから教わる。舞台で失敗したのだから、せめて釘抜きだけでもという思いは果たせたと思う。ばらしたものは、トラックへ積み込む。ここでも発揮される綾香さんの見事な積み込み技術。ツアー3/4過ぎたところで、僕はその技術を間近で見て、どのような順番で載せられているのか大体把握した。もう少し早い段階で知っていれば、もっと力になれたかもしれないと悔やむ。少なくとも松山ではこの体験を活かそうと思った。

トラックへ荷積み後、20時には劇場を退館。一日だけだったけれども、のびのびとやれた。その開放感は良いホールだった。ホテルへ戻り、近所で空いている店は無いかと聞くと、隣の通りに一軒空いているという。みんなそこへ行くのかなと目星をつけていたが、その向かいにある創作料理屋へ遠藤さん、紗矢さん、春菜さん、泉さん、柿澤さん、松本くんと向かうことになる。これだけの人数が入るとお店は満席になってしまった。疲れていたので、早めに店を出て、一落着きしてから、翌朝のご飯を含め、必要物資の買いだし。コンビニには良いものが無かったが、すぐ近くのドラッグストア“マック”でインスタントコーヒーやだいぶお疲れの様子だった綾香さんへ渡す栄養ドリンク、除菌用アルコールの詰め替え用を購入。帰り道に出会った、泉さん、柿澤さんにもドラッグストア“マック”の素晴らしさを伝えると、二人はにこやかに笑っていた。

阿南駅にて『恋に狂ひて』のチラシを発見。林さんが本当に色々なところで宣伝してくださっていたことを実感。

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店からの帰り道、信号無視の車が多いので、春菜さんと共に遠藤さんを守りながら帰る。後で春菜さんが「遠藤さんはうん◯とかおしっ◯とか言うと喜ぶね」と言って笑っていた。そういう子供みたいに無邪気なとこあります。夜中に春菜さんが私の分も一緒に洗濯・乾燥をしてくれた。感謝をしつつ、申し訳ないと思いつつ、先に眠ってしまいました。

部屋に帰ると僕はシャワーを浴びてすぐに寝てしまった。松本くんは後で入ると言ってくれたので先に失礼した。徳島は悪くない場所だと思った。

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