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餓鬼達の夏芝居

ガラスの天井も、
空調設備もちゃんとあるのだが、
劇場は初めから固く口を閉ざし、
外に連なる街と同じに、
眠っている夏。
そんな中で普段と違った、
目覚め方をするには……
誰も彼も、
こんなあやふやなくせに、
硬い空間には、
どんな合言葉も持てず、
たかをくくったり
意地の悪い入場のし方をする。
暑いだけの夏でも、
街も海も劇場も夏なのだし、
それは動かしがたく風を望み、
たとえしめりけや、
熱気をふくんだ風であっても、
誰でもが待ち望んでいる事ではないか。
一陣の風は、
どこから吹いてくるのだ?
だがしょせん、
自然の風なぞ望むすべはなく、
なんとか己れの背後に、
風穴を開けて見る以外手はないのだ。
その第一声はむずかしい、
その第一動作もむずかしい、
なにしろ後ずさりを、
未来という時間に、
置き変えねばならぬのだから。
かつて声や身振りをかかげた旅人は、
境内や道端で、
ほこりと汗にまみれたまま、
夏には夏むきの、
風穴を開けたのだ。
乾いた夏の道端や境内は、
果てしなく前後に続き、
その声と身振りは、
死者達を突然おびき出し、
死者の持って来た
色あざやかな風に、
道端や境内に集まった人々は、
そのひるがえる様を見て、
死んでいた己れの死者達を、
よみがえらせた。
この冷房と赤い絨毯、
人工光線の下で、
うたがい、たかをくくる我等、
上下・左右・前うしろのある
つまらぬ入れ物の中では、
よっぽどていねいに、
隅々まで這い廻り、
どんな小さな弱みでも、
どんな大きな自信でも、
なり振りかまわず、
穴を掘らねばならぬ。
巧みな声や、
巧みなだけの身振りでは、
記憶より深く、
角度の入りくんでしまった、
見えぬ海原にただよう死者達は、
死んだままだ。
我等自身の内に、
そして声に身振りに、
死者達の風を、
今ここに。