『日本間で聴く一葉「大つごもり」「十三夜」』の公演を終えて


『日本間で聴く一葉「大つごもり」「十三夜」』の横浜「自在」南軽井沢稲葉邸公演が終わりました。

炎天下の暑い盛りに会場にお集まり下さいました皆さまには心より御礼申し上げます。
またこの度は都合がつかない旨、激励のお言葉と共にご連絡下さいました方々へも厚く御礼申し上げます。

解放的な空間演出

この度は、これまでにない暑い時期の稲葉邸公演となりましたので、遠藤さんの演出で、会場となるお座敷の周りの障子はほぼ全て外してしまい、お庭や玄関、門の方の窓も開け放し、とても解放的な空間となりました。
横浜駅から徒歩15分とは思えない豊かな緑に囲まれた住居なので、開演時間の四時頃は蚊が多く、蚊取り線香を4〜5箇所で焚き、団扇をお配りし、風通しのよいお座敷でくつろいでいただくことが〈概ね〉できました。と言いますのは…

食中毒にご注意を!

公演一日目はスタッフの要を務める奥本くんが当日の朝に急病で倒れ、来られないという不慮の出来事があり、会場設営やお客様のご案内が非常に慌ただしいものとなってしまい、細かな行き届かないことが生じてしまいました。この場を借りてお詫び申し上げます。
奥本くんは体調不良と食当たりが重なったらしく、ひどい症状で歩くのもやっとな状態だったようですが、二日目はなんとか復帰することができました。
この暑い季節、皆さまも食中毒にはくれぐれもご注意下さい。

お蕎麦屋さんの椅子や机をお借りできました

今回は「自在」の主宰者である今井さんが、廃業されたお蕎麦屋さんからお店の道具一式をちょうど預かっておられたので、初めてお客様のほぼ全員椅子に腰掛けて聴いていただくことができました。それに合わせ舞台を高くするのにも、お蕎麦屋さんの机をお借りいたしました。
この幸運に、そして今井さんとお蕎麦屋さんの上村さんに感謝いたします。

一葉との出会いの場

上演時間は「大つごもり」が50分、15分の休憩を挟み「十三夜」が70分ほどでしたが、お客様は集中して楽しんで下さったようでした。
一葉の言葉の鮮やかさ、人間洞察の鋭さ、そして一葉文学の周知されていない一面である音声表現としての言葉の面白さ、ドラマとしての立体感を少しでもお伝えすることができましたなら、こんなに嬉しいことはありません。
初日に駆けつけて下さった説経節政大夫師からも親身な助言をいただくことができました。この先も大切に育てて行きたい二作品だと思っております。

終演後は、一葉の5000円札の柄が焼き付けてあるお札煎餅と、ほうじ茶をお出しし、お客様にはしばしご歓談いただきました。
すっかり暗くなった頃、横浜駅までぶらぶら歩きながら帰るのは、夜風も心地よくいいものでしたとのお声も後日お寄せいただきました。

横浜「自在」南軽井沢稲葉邸の今後

これまで幾度も稲葉邸で公演をしておりますが、季節がよかったのか、今回の空間作りが殊更よかったのか、これまで以上にお客様が「場」そのものを楽しみ、場への愛着を深めて下さったように感じます。
しかし今井さんのお話では、「自在」としての稲葉邸の運営は来年上半期で終わってしまうようです。非常に残念で、お客様も残念がっておられます。
私共としましては、イベントスペースとしての稲葉邸の存続に微かな望みを託すと同時に、「場」として力を持ち、私たちの作品と出会った時に観る人聴く人を普段と違った世界へお連れすることができる新たな小スペースを探さなければなりません。
劇団では、お客様から「この場所で公演したら「場」として面白いのではないか」などご意見、ご紹介も希望しております。
また作品自体も上演を重ね磨いて行きたいと願っておりますので、上演に関する耳寄りな情報がございましたら是非お寄せ下さい。

初舞台を終えた岡屋さん

正式な公演では今回が初舞台となりました岡屋さんは、あるお客様の言葉を借りれば作品に対してピュアな心で、余計な癖を付けることなく、真摯にお客様へお伝えするという、案外難しい基礎をしっかり踏まえ、確実な一歩を踏み出したとお見受けしております。今後有力な仲間として共に活動して行きたいと考えております。
この稽古期間中に聞いたところでは、岡屋さんは「言葉というものは厳しい。厳しいからこそ楽しい。老い先短いなら本当に楽しいことをしたい。生活の上でいろいろ困難があってもそれは誰にでもあることだから」とのこと。そのすっぱりした性格が、語りによく表れている気がしました。

語りと音楽

松本くんと吉岡は、一緒に組んだ一葉の作品は三作品目ですが、今回は以前に増してお互いをよく聞くことができるようになった気がします。聞くというのは、聞いて合わせるのとは少しニュアンスが違い、よく相手に反応できるようになって来たとも言い換えられます。
松本くん作曲の音楽を毎週数人で集まって稽古しているのですが、私(吉岡)はそこで歌を担当しており、そのことが語りによい影響を及ぼしていると実感しております。語りに音楽の素養、歌の表現力は必須だとつくづく感じております。

一葉とドストエフスキーの関係?

書く機会が無かったので唐突に書きますが、松本くん曰く「十三夜」という作品は特に前半、登場人物が出て来ては非常に長い台詞を延々と喋り、また次の人が出て来て延々と喋るというのが繰り返される、面白い構造をした作品です。「一葉はドストエフスキーに影響受けたのではないだろうか?一葉が「罪と罰」を読んだという記述があるから」とのこと。そうだとしたら一葉の博学ぶりと作品ごとの挑戦が感じられとても面白いです。ドストエフスキーを一葉との繋がりで読み返してみるのも面白いかもしれません。

中心にはやはりこの人!

最後になりましたが、我らが遠藤啄郎氏は、日々の稽古に白熱しながらも、稲葉邸にも元気よく通い、さりげなく熟練の空間作りをし、お客様とも精力的に話し、公演の帰りにはトンカツを食べ、暑さをやり過ごしておられます。
今回の公演にお越しになった何人かの若い方々から、遠藤さんの語りワークショップを受けたいというお申し出を受けました。遠藤さんの自宅で行う私塾のような集まりです。人数が増えれば体力的には大変ですが、信念とも言える考えを伝授できるのは遠藤さんにとっても喜びなはず。無理はせず、大いに白熱してもらいましょう。

Twitterで上演中継をしました

奥本くんの発案で、今回が二度目となるTwitter上での舞台中継を行いました。
当日お越しになれなかった方や、当劇団や語りにご興味をお持ちの方などにご覧いただけたようです。(奥本くんも一日目に病床で観たとか…)
私たちの目指す「語り」は朗読とは違うなどとは言っても、実際に聴いていただかなことにはなかなかお伝えするのが難しいので、今後も試みて行きたいと考えております。
そして中継をご覧いただいた後には是非、会場で生で聴いていただきたいと願っております。

劇団の今後の予定

さて、劇団としましては、次なる目標は、9月の「にごりえ」北海道公演と、10月の『賢治讃劇場』、こちらはボートシアターで久々に行います「フランドン農学校の豚」「シグナルとシグナレス」の二本立て公演です。
『賢治讃劇場』の稽古は既に始まっています。一葉とはまた違う天才・賢治へ挑む日々は、またこの場を借りてご報告して参ります。

そしてこの後一年のうち最大の目玉公演となります、遠藤啄郎書き下ろしの「アメリカ!」神奈川芸術劇場KAAT5月公演の準備も着々と進んでおります!
世代によって少しずつ印象は違うものの、私たち日本人に圧倒的な影響を与え続けて来たアメリカ。72年前に終わったあの一連の戦争をそれぞれの世代が自分に繋がるものとして捉え直し、あの戦争が、アメリカが、私たちにとって何であったかを探る旅は、演劇の枠を越えて、私たち一人一人にとって大きな意味を持つものと思っております。こちらも稽古風景などを随時お知らせして参ります。
どうぞお楽しみに!

記:吉岡紗矢

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