「日本間で聴く一葉」稽古日誌(2017年6月16日)

本日の稽古中の話題。88歳にして遠藤さんが発見したという二つのこと。

①女というものの発見。
遠藤さんは美術大学時代、男女共学についての学生による座談会で、「反対!過去に女の芸術家がいたか?日本の歴史を見よ。ルネッサンスを見よ」と言って、女子学生から大ヒンシュクを買ったとか。その思い出について次のように豪語します。
「今はそういうことを言う奴がいない。議論が巻き起こって面白いだろ?憎まれっ子世にはばかるだ。そんなこともできない奴はダメだ」
しかしその一方、今や完全に樋口一葉の才能に敬服して「女だから書けたんだなぁ」と言い、世界を見渡して「日本も女が国を治めた方がいいんじゃないか?」と言い、そして「男と女に差はないんだねぇ。一葉のおかげで気付いたよ」と真顔でおっしゃる。その真顔に私(筆者・吉岡)は遠藤さんの、そして日本の歴史を感じました。

②小説とは何であるか。
毎回「十三夜」の稽古が終わる度に遠藤さんは「こんな出来事は偶然過ぎる、あり得ない!」とまず言い、そして目を拭ったりします。そして今日は「小説はこうでなきゃ。あり得ない出来事だけどその世界に連れて行ってくれる。出来事そのものが重要なのではなく、その設定の中で生じる軋轢やそよぎ、微妙な心のひだやその切れ味などを書くことが小説なんだな。長いこと自分もものを書いて来たけど、一葉をこれだけ読み込むとそのことがはっきりとわかる。何事も深いねぇ」と嬉しそうにおっしゃいました。

この写真の見台に乗っているのは「十三夜」の台本です。
台本カバーは美しい風呂敷を貼り込んで岡屋さんが作って下さいました。
「大つごもり」も素敵なカバーですが、今回は写真を撮り損ねてしまいました。
岡屋さんは武蔵野美術大学の商業デザイン科出身です。
以前「恋に狂ひて」の閻魔や見る目の衣装作りも手伝っていただき、実に手際よく綺麗に仕上げて下さり、本当に助かりました。

ちなみに上記の写真の見台は3年前に私が作りました。
折りたたみ式で、人口漆が塗ってあり、縁に遠藤さんが金箔を貼って下さり、自慢の代物です!(セットで作った座椅子もあります)

最近読んだ/読みかけの本の一部(松本)

最近読んだ/読みかけの本の一部(松本)

岡屋さんが帰られた後、松本くんから日本浪漫派の話題が飛び出しました。

「プロレタリア同人への寄稿から出発し、後に政治的・社会的無力感に端を発するロマン主義的なイロニーを背景に、熱狂的な古典回帰論、無責任極まる戦争論を展開し、当時の知識階層青年に多大な影響を与えた保田與重郎」の本を読んでいるとか。
また、自らも信奉した保田與重郎を戦後になって批判しその意味を問うた橋川文三の本も読んでいるとか。
松本くんが何故そんな本を読んでいるのかと言えば、来年の公演に向けて既に稽古が始まっている遠藤さん書き下ろしの「アメリカ!」の創作のため、立場や年代ごとに、戦前・戦中の人々がどのような気分・考えで生きていたのか知りたいからとのこと。
遠藤さんは終戦の年は17歳。ギリギリ戦争に行かずに済んだ年齢なので、若者たちの保田與重郎への熱狂的支持は知らないとのこと。
当時の多感な年頃の少年少女は二、三歳の年の差で、感化された思想が大きく違うようです。終戦を挟んでの時代の変化の大きさを感じます。
(ちなみに遠藤さんは「終戦」ではなく「敗戦」という言葉を使います)
「アメリカ!」の方もどうぞご期待下さい!

記:吉岡紗矢

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