『恋に狂ひて』2015年ツアー記録 6月27日(土) 高知香南市弁天座

執筆者の文字色:吉岡 奥本 松本


ついに弁天座公演だ。ツアー前からたびたび話題に上ってきた弁天座だが、果たしてどのような舞台となるのか期待で胸がいっぱいだ。朝、少し早く起きる。同室の松本くんは昨夜良く寝たからか早起きだ。ギターの練習を早速している。後に気付くのだけれど、それは彼の日課であった。

今回のツアーは体調と精神状態を考慮して、序盤は練習を控えていた。高知公演の後くらいからようやく練習が気兼ねなくできるようになり、やっと演奏の勘が戻ってきたような記憶がある。そういえば、この日、寝ている時に「あ”ーーーー!!」と叫び声をあげたらしいことを後から人づてに聞く。

僕は喉が渇き、水のありかを探していた。

部屋には無く、仕方なく食堂へ向かう。時刻は7時前。食堂では、朝食の準備がまだ出来ていない、昨夜も伝えた通り8時になると言われる。えっ、7時じゃ無かったのかと釈然としない思いで食堂を出ると、遠藤さんと遭遇した。遠藤さんもやはり、7時だと思っていたようだ。というか、みんな7時だと思っていた、芸西村の家を朝8時30分に出発しなくてはいけない。8時に朝食では遅すぎる。遠藤さんに叱咤され、朝食の時間を早めてもらう交渉をし、7時30分朝食ということに予定を変更してもらう。それから、全員の元へ朝食時間を伝え、ざっと汗を流すと、もう7時30分。朝食だ。

8時30分、弁天座へ出発。トラックには竹内さん、綾香さん、そして、説経節政大夫さんという異色の組み合わせ。三人はどのような会話をするのだろうか? 気になる。

政大夫さんの夢の話だったとか。「幸せとは何か」の考察について。

宿から、弁天座まではさほど離れていない。移動中、高知新聞の山崎さんに電話をする。終演後、遠藤さんとお話をすることになった。9時前には弁天座に到着。熱くなりそうな気配だった。照明の作業をしている間、舞台部はパンチカーペットを出す。後ろから順に敷いていく。弁天座の舞台は綺麗な白木であり。釘を打つことは出来ない。スリヨンと書かれた養生両面テープを節約して使いながら金床を貼っていく。両面テープの処理には時間がかかり大勢で一斉に当たった。

このツアーの舞台組は、楽師の松本くんと泉さんも手伝ってくれている。舞台の片付けを、照明の竹内さんも手伝ってくれる。本当に全員で作る舞台だ。そういえば、神戸公演の時、竹内さん、湯浅さんは筋肉痛になったと言っていた。玉寄さんは腰が痛くなっても大丈夫なように、電気針を準備していた。綾香さんからは2kg痩せたという話をきいた。僕はどうなのだろう? 痩せたようには思わない。むしろ、ツアー中に筋肉がついたように思う。あくまで思うだけだけれど……。そういえば、この仕込では湯浅さんはいつものトレッキングシューズを履いていなかったように思う。白木の舞台にトレッキングシューズはいかにもごつくて似合わないから、僕が記憶から消しただけかもしれない。

舞台の設営は恙なく終わるも、今日の公演は16時からだ。岡山と同じ気分でやっていたのでは、間に合わなくなる。皆、少し急ぎ気味に作業している。とは言っても、明かりを合わせている時は舞台の作業を行うことが出来ない。休憩の間、朋さんが高いテンションで飲み物などを出してくれる。それを見て、今日からツアー後半戦なのだから頑張らなくてはと気合が入る。

思い返せば、高知から先は本当にあっという間。(悪い意味でなく)こなすことに慣れたこともあるのかもしれない。上り坂から下り坂に転じたかのよう。

照明チームが作業をしている間、僕は楽屋に居たのだが、そこで奈落のことが話題になる。気になって、奈落を観に行く。湯浅さんが“幽霊が出ますよ。昨日、それらしき人影が……”なんてことを言うが、“へ~”と笑って懐中電灯を借りると、下へ降りた。そこは綺麗な奈落だった。余計なものが一切なく、居心地が良い。少しひんやりしているか。そのまま、そこで寝ていたくなるようなところだった。セリは、手動ではなく電動だ。

ちなみに、湯浅さんの“幽霊が出ますよ”発言は、冗談だけれども半分正しかったらしい。と、いうのはセリから出てくるのは、基本的には妖術使いや妖怪や幽霊という話だからだ。「恋に狂ひて」で言えば、“清平の御台所”紗矢さんの役どころか。または、玉寄さんの“閻魔”や春菜さんの“見る目童子”となるのだろうか。

残念ながら、花道に黒パンチを敷いたため、今回セリは使わなかった。黒パンチを敷いているときだったか、玉寄さんが人形劇団で受けるギャグというのを言っていた。良く覚えていないけれど、パンチというのが有名な人形劇にあり、それとかけた洒落だったと思う。また、ギャグと言えば、確か神戸で松本くんが説経節政大夫さんから“松本くんは神道ですか?”と聞かれ、“僕は神道じゃなくて、○○どうです”と言ったのが皆から受けていた。もっとも、本人はギャグのつもりではなく、素で言っていたようだ。話は戻るが、黒パンチが切られる時は、僕も身を切る思いだった。……帰ったら新しいパンチを購入しなくては……。その資金も調達しなくては……。

そうこうしているうちに、場当たりの時間がやってきた。遠藤さんは昨日、今日と演出プランを色々と考えていた。変更のあったところを中心に場当たり。ただし、冒頭のシーンだけはしっかりと行った。声の返りが昨日ともまた少し違う。舞台装置が組みあがったこともあるだろう。お客さんが入ればまた変わってくる。そのことも計算に入れて2時間やりきらないといけない。

花道の脇にずらりと篝火の形をしたライトが立ち、風情がある。ちなみに休憩時間の客席の明かりは館内中にぶら下がっている赤い提灯だ。真っ赤に染まる客席は異様な雰囲気。場当たり中、出番でない時に客席に座ってみると、どこよりもこの劇場で観客として観てみたいという非常なワクワク感を覚える。升席から見上げる白木の舞台の魅力は凄い。

本番前の歌の練習。本日慌ただしくまだ声の調子がいまいちの上、響きが吸い込まれ返って来ない。ここで力みが入ると声がやられてしまう。けれど客席ではとてもクリアに音が聞こえるという。その意見を参考に、押し出しを強くしないように気を付ける。

受付には高知の劇団「蛸蔵」の方がいらして手伝ってくれている。この日もきちんとご挨拶と商品についての説明。ふと横を見れば、照明の竹内さんが「恋に狂ひて」T-shirtsを着てくれている。その効果か? 開演前にT-shirtsが4枚売れたそうだ。

竹内さんはTシャツの柄を見せるために体の向きをクルクル変えながらうろうろして下さったらしい。不審な動きをしてまで宣伝していただき、感謝!

弁天座公演の幕が上がる。
舞台はつつがなく終わる。自分自身の調子はキープできている。観客席とのやりとり、舞台上でのことはすべてクリアーに見えている。

本日は客席から「ブラボー!」の掛け声をいただいた。

終演後、かつて横浜で劇団主宰のワークショップに参加された人と再会。わざわざ高知まで観に来てくれるというのはとても嬉しい。しかも、満足してくれたようだったので二重に嬉しかった。これは、その後の公演も頑張らねばならない。気合が入る。

二階席で観ていた遠藤さんとしては、劇場空間と作品の相性として、少し拡散した感じがしたと言っていた。確かに丸裸のような響きの感じや、二階席をも含んだ空間意識など、個人的に難しかった。ここで何ステージかできたら、培われる新たな感覚があったように思う。しかし歌舞伎式の花道を使った入水場面の演出は効果絶大だったらしく、身内のことながら政大夫さんも深く感じ入ったとか。

本日は首都圏から三人の方がオッカケで来て下さっていたがお会いすることができなかった。

そして、挨拶をすませるといつもの如く販売部へ。遠藤享さんがデザインしてくれたT-shirtsを着て声掛け。このころになると、ほとんどのメンバーが終演後「恋に狂ひて」T-shirtsを着てくれるようになる。女性出演者も「恋に狂ひて」T-shirtsを着てお客さんへ挨拶に出る。お客さんの反応が良い。良く、声をかけられる。

このような歌舞伎小屋だと、場所柄お土産を買うことも合わせて楽しむ感覚になりやすいのか、グッズを買って下さる方がとても多かった。

販売コーナーの横では、多くのお客さんが黙々とアンケートを書いて下さっている。

受付や物販コーナーはそのようにザワザワしていた。一方、遠藤さんは楽屋で「恋に狂ひて」の話や次回に予定している「アメリカ」の話を高知新聞の方としていた。

バラシが始まる。いつものバラシと違うのはスリヨン(養生両面テープ)の扱いだ。このテープを金床からはがすのに苦労した。楽しみにしていた弁天座公演ももう終わった。あと一日くらい、この劇場でやりたかったが、そうも言っていられない。20時過ぎに弁天座を出て劇場の前で記念撮影。記念はそれだけではなく、劇場名物のアイスクリームも頂戴する。みんなに配布し、僕は最後の一つを取る。誰だったか、アイスを食べない僕を見て、“食べないのか”尋ねた。僕は“全員が食べるまで、僕は食べられません”というと誰かは、じゃあ食べないでおこうというようなことを言った。どうも、僕はからかいの対象となる定めらしい。 

弁天座ともさようならの時間となった。僕はバンに乗り込む。助手席ではなく、後ろの席だ。運転は朋さん、助手席には湯浅さん。トラックには竹内さん、綾香さん、紗矢さん。既に若干眠い。

弁天座の方々にも本当にお世話になりました。ありがとうございます。

九州から観に来てくれ、今日の舞台をとても喜んでくれた懐かしい方から、連絡あり。観劇後の帰り道、虹が出ていたとのこと。確かに夕焼けは異様にきれいだったが、バタバタしており誰も虹に気付かなかった。彼の生涯で最もきれいな虹だったとのこと。

その方と会うのは相当久しぶりだったのだけど、作品を通じてまるで最近も普通に会っていたかのようにお話しできたことがとても嬉しかった。

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夕食をセルフのうどんで食べようという話になるが、開いておらず仕方なくファミレスに……西日本だけにしかない何とか(ジョイフルです)というお店。僕の注文が何故か受理されていないというショッキングな出来事がありつつも、無事に食べて、徳島阿南市へ向かう。

トラックでは、可愛い動物の標識に無邪気に反応する竹内さん、慣れた手付きでハンドルを切る綾香くんと共に、様々な音楽を聴きながら走る。上演後の運転で相当疲れている綾香くんの希望に合わせクラシックをかける。綾香くん「癒される〜」竹内さん「俺トラックでクラシック初めて聴いたよぉ(笑)」荒々しさに上品さが加わり凄みが出る感じです。

高速に乗り、阿南へというところでトラブルがあった。ガソリンだ。SAのガソリンスタンドがやっていなかったらしい。その後のことは、眠ってしまい覚えていない。道中、湯浅さんが車にまつわる怖い話をしていたように思う。トンネルの中なのに雨が降っていたというベタな話だ。昼の奈落と言いホラーが好きなのだろうか? 朋さんのリアクションは、至って平常だったように思う。

どこのSAか記憶が定かでないが、奥内の自販機の近くに笹と短冊が置いてあった。湯浅さんに「短冊ありますよ!」とネタを振ったらすぐにスラスラと願い事を書いてくれた。すごい瞬発力、尊敬します。後で写真を見たら漢字が違っていたが、その時は疲れていて全然気付かなかった。

その笹と短冊の側にあるアイスの自販機で「日向夏&ミルク」のアイスを買ったら、釣られて遠藤さんと政大夫さんも購入。遠藤さんも日向夏、政大夫さんは紫芋のアイス。両方とも一応地のものっぽい。

ガソリンスタンドを探すバンと別れ、トラックは先にホテルへ向かう。船劇場から持ってきたお守りを柿澤さんが管理してくれているが、バンがトラブルに見舞われているところをみると、お守りはトラックの方に積まれているに違いないねと話していた。のちに確認したらやはりそうだった。

そして、目が覚めたら阿南市だった。
目覚めて、メガネをどこに置いたかわからなくなる。メガネをなくしたり壊したりすると、僕はただ舞台に立つだけの能無しになってしまう。焦って探す。説経節政大夫さんから、“落ち着いて”と声がかかり、春菜さんがメガネを見つけてくれる。見つかって本当に良かった。
深夜の阿南駅近郊に人影はなく、三人ほど千鳥足であるいている若者を見たが、まるであるジャンルの映画(どんなジャンルかは想像にお任せします)を見ている様だった。柿澤・泉、松本、奥本の四人は“ホテル・丸の内”に宿泊。殺風景だけれども、広い部屋。松本くんと同室なので、気兼ねなくのんびりできそうだ。

一度、チェックインして、それから荷物を待った。時間は深夜の2時。明日は16時からの公演だ。体力を維持するためにきちんと休もう。

深夜にもかかわらず親切に対応してくださったホテルの方々に感謝。とても温かい方々でした。また、深夜遅くまで車を運転してくださった斎藤さんも、本当にお疲れさまでした。

深夜二時以降に最低限の衣裳を洗濯。朝はホテルからすぐの夢ホールで9時から仕込み。気違いじみたハードスケジュールに思えるが、この頃はもう慣れた。ガソリンスタンドに立ち寄り、二つのホテルを行ったり来たりした朋さんはさすがにお疲れの様子。もう誰も自分のことで精一杯という感じの夜でした。